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福岡高等裁判所宮崎支部 平成8年(ラ)4号 決定

①事件

抗告人(債権者)

株式会社シティズ

代表者代表取締役

谷﨑眞一

相手方(債務者)

竹本康博

第三債務者

有限会社松栄

代表者代表取締役

松尾芳則

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状記載のとおりである。

2  一件記録によれば、抗告人は、相手方に対する鹿児島簡易裁判所平成七年ハ第三七五号貸金請求事件の執行力ある判決正本に基づき、請求債権として原決定別紙請求債権目録2記載のとおりの表示をして、相手方の第三債務者に対する本決定別紙差押債権目録記載の債権の差押えを申し立てたが、原裁判所は、債権執行において、その支払いをする第三債務者の負担、債権執行手続の円滑な実施等の観点から、継続的給付を内容とする金銭債権に対する強制執行については、差押債権の附帯請求の終期を差押命令発令日と定めるべきであるとして、原決定別紙請求債権目録1記載の債権の限度でこれを認め、その余の申立てを却下したことが認められる。

3  民事執行法三〇条一項は、請求が確定期限の到来に係る場合においては、強制執行は、その期限の到来後に限り、開始することができるとしているが、これは、強制執行制度が即時に請求を強制的に実現する制度であることから当然に要請されることを明らかにしたものであり、この要請は、基本たる請求について充たされていれば足り、基本たる請求債権が履行期にある以上、これに附帯する遅延損害金で強制執行申立後に期限の到来するもの(以下「履行期未到来の遅延損害金」という。)についてまで絶対的に必要とする趣旨と解することはできないこと、また、民事執行法上、他に、履行期未到来の遅延損害金についての強制執行の開始を許さない趣旨の規定も存しないことから、券面額で差押られた債権を移転する転付命令は別として、給料その他の継続的給付に係る金銭債権に対する強制執行においても、他の不動産執行等におけると同様に、履行期未到来の遅延損害金について強制執行の開始を認めるべきであると解することもできる。

しかしながら、給料その他の継続的給付に係る金銭債権に対する強制執行について、履行期未到来の遅延損害金について強制執行の開始を認めると、第三債務者は、支払いの都度、その日までに発生した附帯請求に係る遅延損害金について、自己の負担において計算しなければならなくなり、特に、給料債権の場合、その期間が長期化することもあり得るので、それによる危険と煩雑さは、雇用主が推進する事務の合理化・簡素化に少なからざる影響を与えるものである。

この点については、第三債務者の負担の軽減を図るために、債権者が第三債務者に対して遅延損害金を計算して請求すれば足りるとする反論もあるが、そのような方法がとられたとしても、第三債務者は債権者の計算が正当であるか否かを検算しなければならないから、結局、負担の軽減を図ることになるものではなく、その反論は理由がない。

したがって、第三債務者には民事執行法上課せられた債権執行手続に協力すべき国法上の義務があるけれども、本来、債権者と第三債務者との間には直接の法律関係はないのであるから、その協力義務の内容及び限度は、差押命令によって債権者が受ける利害と第三債務者が受ける危険及び負担とを、民事執行法上も認められる利害衡平の観念に照らして定めるのが相当である。

しかるところ、第三債務者の危険及び負担の程度、債権者の利害、執行手続の円滑な実施等を総合勘案すると、給料その他の継続的給付に係る金銭債権に対する強制執行においては、請求債権を差押命令発令日を基準とし、同日までに期限の到来した遅延損害金に限定することが最も合理的であり、したがって、これと同趣旨の原決定は相当で、本件抗告は理由がない。

よって、本件抗告はこれを却下することとし、抗告費用について、民訴法四一四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官根本久 裁判官海保寬 裁判官安藤宗之)

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